VR錯覚ターン – VR Illusioning Turn
- Unity
- VIVE
- VR
2017.11.10
ヴァーチャル空間の長い道を進む。たどり着いたその先でHMDゴーグルを外した現実世界では、、最初の場所に戻っている!?という不思議体験ができる Redirected Walking コンテンツ。
ともあれ、下の解説動画をごらんください!
■着想
現実空間が狭くても、広大なVR空間を体験させるために、コントローラーによるワープ機能をはじめとして、いろんな移動アプローチが探求されています。
その一つにRedirected Walking(リダイレクテッドウォーキング)があります。
Redirected Walkingは、昨今のVR機器が登場する以前からも研究されていたテーマです。Redirected Walkingは、仮想空間内での空間認識を錯覚させることで、ヴァーチャルと現実との空間認識を変更する技術です。日本では東京大学廣瀬・谷川・鳴海研究室とUnity Technologies Japanの共同研究で制作されたVR作品「無限回廊 Unlimited Corridor」が有名です。
空間認識を錯覚させる方法はいくつか提案されていて、
- 仮想空間ではまっすぐ歩いているが、現実にはゆるいカーブを描いて歩いている
- 仮想空間では早く進んでいるように演出しているが、現実にはそれほど前進していない
- 仮想空間で曲がった角度と、現実空間で曲がった角度が違う
- 仮想空間では階段を上っているようで、現実ではただの平地を歩いている
などが代表的な例で、この錯覚を実現させるために、仮想(VR)の空間ルールを上手に誤魔化すのです。
今回、私が利用させていただいているAdvancedTechnologyLabのバックパックPCルームのVRエリアは壁面までの余裕を考慮すると4.8m×3.6m程度で、このサイズは一般にはRedirected Walkingを実現させるには広さが足りないと考えられているようです。本作品ではなんとかこの空間でRedirected Walkingを実現しようと考えました。この狭いエリア設定で実現できれば、日本の一般的な部屋サイズでのVR体験にもRedirected Walkingを導入できるでしょう。
■工夫
一般的に「部屋」は、直線と直角で構成された四角い空間です。四角い空間をどう歩いたら錯覚体験できるか考え、「8の字」と「ターン角度」をポイントにアイデアを発展させました。
Point1:8の字
現実世界において、四角形のコースを一方向にぐるぐる歩かせるだけでは、VR空間でどれだけ歩きまわったとしても、体験者が体感的・感覚的に「自分は現実にはずっと時計回りに回っているはずだな」とバレてしまいます。そこで、任意のタイミングで8の字に回遊させ、進行方向をランダムに逆回転させることで、その感覚を誤魔化せるのではないかと考えました。
Point2:ターン角度
この部分がRedirectedの演出です。私は自室を目をつむって歩き回りながら、「どうすれば狭い空間で錯覚的なVR体験が実現できるか」を考えました。その中で一番採用できそうだったのが、現実世界では90度の直角に方向転換させるけど、VR空間内では異なる角度を曲がったことにするというアイデアです。そこから生じるターン角度のズレを活かして、現実にはぐるぐる回遊しているだけなのに、VR空間ではどんどん違う方向に向かって歩いているようなコースを歩かせることができると考えました。
VR空間をどのくらいの角度曲がることにするかは、現実世界の角度とあまりに大きく乖離させてしまうと違和感を感じるので60度としました。つまり、現実世界では90度ターンしているのに、VR空間では60度しかターンしていないようにRedirect(Rerotate)させるのです。
Result:コース案決定
上の2案を踏まえて考えを進め、さらに対角線上も歩かせることで、1辺の長さやターンの角度のバリエーションが増えることに気づき、最終的には上に掲載した動画のような動線を採用しました。
■実装(Unity&VIVE開発者向けの内容)
UnityとSteamVRプラグインを利用しました。開発当初は、CameraRigを空のラッパーオブジェクトに入れ子にし、HMDが回転した時にラッパーオブジェクトをy軸方向だけ逆回転させて錯覚させる実装をしようとしましたが、CameraRIgの位置移動が絡んでくると回転軸がずれる問題に遭遇し、調整しようにもSteamVRのeyeの更新タイミングが謎だったので、最終的には、HMDが回転した時に、世界全体をy軸のみ一定比率だけ逆回転させています。例えば、自分が左に90度ターンしたら、世界が30度逆に回転し、結果として自分が60度しか回転していないように見えるというわけです。
VR空間の素敵な背景はAssetStoreからです。ありがたい!
■完成
今後は、このアプローチを活用して、自宅で美術館・登山・迷路など、狭い空間なのにどんどん歩き回れるコンテンツを作りたいなと考えています。底に傾斜つけたサンダル履かせるだけで、坂道を登ってる錯覚できないかなぁ〜とか考えてます。
今回私も初挑戦で作ってみたRedirected Walking作品、どの程度錯覚体験を味わえるのか?酔わないのか?などは個人差もあり、実際体験してみないと分からないものです。2017年12月16日(土)に広尾のAdvancedTechnologyLabで、ATL SHOWCASE作品を展示体験できるイベントが予定されていますので、興味ある方は是非ご来場いただいて本作を体験していただければ嬉しいです。
詳細と参加方法はこちらから → (ATL SHOWCASE 体験会)